寺に居る理由 8

息子3歳。1月から近くの保育園に通っている。
今日はその保育園のお別れ遠足。最終目的地は「農村公園」なのだが、中継地点はうちの寺。で、先生たちが境内のあちこちに隠した番号札を探して、見つけた子には私がカードにはんこを押す、というスタンプラリーをしたのだが・・・自分の家に遠足に来るとはどんな気持ちなんだろうなあ。
年長組のお姉さんに手を引かれながら歩く息子の後ろ姿をみながら、そんなことを考えた。

美味しそうに寿司をぱくつく彼に、思い切って聞いてみた。
「あのー、お坊さんがお寿司食べて良いんですか?」
自分も寺に入ってからよく聞かれたが、なんとなく「お坊さんは精進料理を食べるのではないか」という思い込みがその頃の私にはあった。実際、多くの人はそう思っているのではないだろうか。
西遊記で夏目雅子演じる三蔵法師は肉を食べて苦悩していたし、リー・リンチェイ(今はジェット・リーか)も「少林寺」で肉を食べてこっぴどく叱られていた。映画「ファンシイダンス」でも竹中直人だったか本木雅弘だったか記憶が曖昧だが、規則を破ってこっそり焼き肉を食べていかにも嬉しそうにしていたような気がする。
しかし、今目の前にいる僧侶だという男性は何のためらいもなく喜々として寿司をほおばっている。
きっと彼が普通のサラリーマンだったら気にならないのだろうけれど、彼がお坊さんだと知った今は、なんだか気になってしまったのだ。いいんだろうか?お坊さんが生臭もの食べて・・・。
「なんでも食べますよ。」
と、彼はあっさり答えた。
「本当はダメなんですけどね。」
おいおい。
「いまの日本の僧侶が精進潔斎するのは、行(ぎょう)の時くらいです。でも、私が四国の寺に居たとき食堂のおばちゃんが作ってくれたカレーなんて、普通のカレーから肉取っただけでしたからね。ルーに肉のエキスが溶け込んでてどこが精進なんだか。」
「じゃあ、お坊さんって精進料理ばかり食べてるわけじゃないんだ。」
「禅宗ではそういう人もいるかも知れないけど・・・ほとんどいないでしょうね。でも、お釈迦様は肉を食べるなとは言っていないんですよ。」
「?」
「よく勘違いされるんですけれど、お釈迦様が定めた戒律の中には肉食を禁じたものはないんです。不殺生戒といって動物や魚を殺してはいけないという決まりはあります。え〜と、托鉢(たくはつ)て分かりますか?」
「道ばたにお坊さんが立っててお金をあげると鈴を鳴らすヤツですか?昔は家にも回ってきてたような気がしますけど。」
「いまの日本ではお金を入れますけど、もともと托鉢は乞食行(こつじきぎょう)といって、鉢を持ってまわって食べ物をもらう行だったんですよ。そして、どんな食べ物をもらってもそれを食べなければいけない。中には当然肉が入っていることもある。そうしたらその肉も当然ありがたくいただかねばならない。」
「なるほど・・・。」
「タイとかビルマのほうの上座部仏教(じょうざぶぶっきょう)のお坊さんたちは、今でもそういう風にしているらしいです。
もっとも、もらった肉でも食べてはいけない場合があって、その肉が自分のために殺されるのを見てしまった場合、その肉が自分のために殺されたものなのだと信頼に足る人から聞かされた場合、用意された肉がどうやら自分のためにわざわざ殺されたものらしいと疑いうる場合、この三つのいずれかに当てはまったら、その肉は食べてはならないとされてます。
日本や中国に伝わった大乗仏教(だいじょうぶっきょう)では、何故か僧侶は肉食を禁じる、ということになってしまったけど、これはヒンズー教の影響が大きいんじゃないかな。
まあ、自分は今は普通と変わらない生活をしているけれど、目標は戒律を守ることを全面に打ち出した寺・・というか、そういう場を作りたいんですよ。」
うーむ、教科書でしか知らなかった言葉の数々が、彼の口に乗ると生きた仏教の世界として、目の前に紡ぎ出されるような感覚。このひと、本当にお坊さんなんだなあ。
「ただ、日本の僧侶は明治以降一般人と同じように結婚するのが当たり前になったけれど、これだけは仏教界で日本だけの特殊な在り方ですね。私が四国の寺に居た頃、お遍路さんに“今の管長さんは御大師様(おだいしさま)のご子孫なんですか”と聞かれましたけど、とんでもない。いまの日本は浄土真宗(じょうどしんしゅう)の家がほとんどだから、お寺も世襲と思っている人が多いけど、元々はそうじゃなかったんですよ。」
このへんはよくワカラナイ・・・(今なら分かるが)。
もともと神道の家に育った私には未知の世界。でもまあ、こういう話は好きな方なので興味深く伺い、質問しているううちに、気がつくと食事が終わっていた。
食事代は結局彼に出してもらい、アパートまで送ってもらった。ごちそうさま。
次の日はまた違う店に誘われ、その次の日は例の自然食のお仕事をされている彼の先輩のお家に一緒にお邪魔することになった。

 
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