寺に居る理由 7

「二月は逃げる」なんて誰か言ってたけど、本当・・・。
明日から3月。私もいよいよ余所寺に入る。数えだけれどね。

はじめて今の夫と食事に行った店は、地元の和食屋さん。
大宴会場と襖で仕切られた個室のみの店。彼の家の行きつけらしく、店にはいると三角巾に割烹着姿の女将さんが親しげに挨拶してこられた。
私を見て
「お嫁さんですか?」
と、笑顔を向けられる。
「いえ、違います。」
と、ばっさり答えると
「お嫁さんになってあげてくださいよー。」
と、ますますにっこりとして言ってこられる。
彼の方を見ると、うつむいてこちらは見ずに、にこにこしている。
あーあ、鼻の下のばしちゃって・・・自分の彼氏だったら蹴りいれてるとこね、と思いながら中程の座敷に案内された。
座敷といっても3畳ほどの小さな部屋である。
「今日給料日だから、なんでも好きなもの食べて。」
と、メニューを勧められる。典型的な和食が並ぶメニュー。天ぷら、刺身、寿司、とんかつ、唐揚げ、等々の定食がほとんどだ。このころ、まだマクロビオテックに片足突っ込んだような食生活をしていたので、刺身と揚げ物は気が進まず・・・選んだのは
「じゃあ、鰻の蒸籠蒸し定食をお願いします。」
この店の定食で一番高いものだったのだ(コースはまだ高かった)。
「・・・どうぞ。」
私の注文を受けて、彼は寿司定食を頼んだ。今でも、この話になると夫は「あのとき一番高いのを頼んだからびっくりした。フツー遠慮するもんだけどね〜。」と、冗談で言ったりするが、食事に招かれたら相手より高いものを注文するのが礼儀だと大学時代教わったので、マナー違反だとは全然思っていない。だいたい、私も給料日だったから自分では元から払うつもりだったのである。
今となっては、笑い話であるが。
さて、料理が来るまで改めて自己紹介、じゃないけれどそんな感じで話をしながら、話題が先日の缶コーヒーを飲まなかったことに移った。コーヒーが苦手なのか、と聞かれたので
「いえ、私砂糖の入った飲み物は得意じゃなくて。あと、ご存じないかもしれませんがマクロビオテック・・・玄米菜食に近い暮らしをしているんです。」
と、答えると
「やっぱりそうだったか。」
と、得心がいった、という顔で頷かれた。えーっ?
「わたしも、塾講師をやっていたときの先輩に勧められて時々玄米食べてるんですよ。」
「そうなんですか。」
「その人、ほらこの間中国語で一緒だったヒロエちゃんのお父さんで、酢とか自然食品の販売をしてるんだけど・・・あ、大分の赤峰さんて知ってる?」
「なんか、ニンジンの本を書いている生産者の・・」
「そうそう、この間講演に来てね。うちの実家も農業やっているんだけど、無農薬とまではいかなくても減らす方向で考えてるんだ。」
「じゃあ、この間のミカンはお家で作ってるんですね。私の母の実家もミカン農家なんですよ。」
思いがけず、話が弾む。まさかこんな田舎に(失礼!)マクロビオテックのことを知っている男性がいるなんて!

少々話が脱線するが、最近の健康志向で認知度が高まってきたとはいえ、まだまだあまり知られていないマクロビオテックのことについて少し説明させていただきたいと思う。
「マクロビオテック」は食事のスタイルからいえば「玄米菜食」になるのだが、ただその食生活をしているということだけでなく、それを通じて自分の生き方・思想も問われていくものとなる。なーんて書くとお堅くて大袈裟だが、野菜は無農薬、肉魚卵は食べない、牛乳は健康に悪い、市販のスナック菓子もジュースもお断り、ケーキ・和菓子も食べない(マクロビでは砂糖はダメ)、インスタントラーメン・レトルト食品なんてもってのほか、コンビニのお弁当なぞも絶対食べない、外食もナチュラルレストラン系しか行かない(うどん・そばの出汁も普通の店は鰹からとりますし)、白いごはんも食べない・・・・こんなヒト、端で見てる分には面白いかも知れないけれど、実際付き合うと「あれもだめ、これもだめ」で疲れることこの上ないと思う。しかも、マクロビオテックは日本で戦後長い間「正しいもの」とされてきた西洋医学の栄養学とは全く反する東洋医学に基づいた独自の陰陽理論による営養学(減塩はするな、牛乳・砂糖は体に悪い等)を持っていたりするので、その考えを貫いて暮らしていこうとすると、必定自分の属する社会との間に軋轢が生じてくる。(まあ、これは私の経験上のことですが)
となれば、一体なんのためにやっているのか?自分の健康のため?自分が有機栽培物の消費者となることで少しでも環境問題に貢献するため?肉食をしないことで食物分配の不均等による飢餓問題やに対してアピール?単純に玄米が好きだから?
そういう問いかけが自分のうちに生じてくる。
最近、健康ブームと環境問題への意識が高まる中で、マクロビオテックも「ロハス」なんてカテゴリーの中でオシャレに扱われているが、私がマクロビをはじめた頃は、なんというか・・・まあ変わり者のすること、程度にしか思われてなかった。一部の女性誌などでマドンナがマクロビオテックを実践していることが取り上げられたりしていたし、自然食品の仕事をするようになってから顧客に芸能人や芸術家が多いことに驚きもしたけれど、都会で玄米菜食生活をしようと思うと結構お金がかかったりするからそういう階層の人か、信念のある人でないと厳密に続けるのはキビしい感じがしたのも確かだ。
鹿児島に帰ってきてからは、実家の食生活に合わせつつもさりげなく肉・砂糖は積極的に取らないようにして暮らしていた。マクロビオテックが大嫌いな父と争いたくなかったから。

しかし、ここに来てマクロビオテックに理解ある男性に出会えるとは・・・意外。
かといって、このときもまだ私は彼のことを恋愛対象としては全く見ていなかったのである。
話が盛り上がっているところに料理が運ばれてきた。
お盆の上にそれぞれのメインの料理と、サラダ・吸い物・茶碗蒸しなどが乗っている。美味しそ〜。
と、ふと、ある疑問が生じる。私はそれをストレートに彼にぶつけてみた。

 
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